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ふしあな日記 4

5月12日
鳥居みゆきが他人に思えない。

はじめて彼女を見たのは「ラジかるッ」の歌合戦のコーナーだった。
テレビに徐々に出始めた時だと思う。
共演していたタカアンドトシが「放送していいんですか…?」と心配するくらい
挙動不審な行動(目をひん剥く・うわごとを口走る等)をくりかえしていたのに、
中島みゆき「旅人のうた」が始まるやいなや、別人のように朗々と歌い出したのだ。
その姿は、まるで中島みゆきが憑依したかのように見えた。
その時は惜しくも負けてしまったが、私の目は彼女に釘付けになってしまった。


あの時のカセットを聴かなくなって何年たつだろう。
13歳から大学に入る頃まで、私は、身を潜めるようにして中島みゆきを聞いていた。
カラオケで歌って、その場を妙な空気にしてしまってからというもの、
友達には決して打ち明けないことにしていた。
毎週パーソナリティーをつとめるラジオも欠かさずチェックしていた。
金曜日はNHKFM「ミュージック・スクエア」、終了後は「お時間拝借」。
その日番組でかかった曲は、律儀なことに毎週メモしていた。
「続いてーの曲はー、ペンネーム・小つぶの小石さんからのリクエスト、
『空と君のあいだに』・・・」
田舎のラジオは電波が悪い。
サーーー…という小雨が降るような音が、いつもみゆきさんの声の後ろに流れていた。
でもそれがとても似合っている気がした。

親元を離れて私は忙しくなった。
ヘッドホンをぐっと耳に押し当てて、歌詞カードをじっと見つめるような
歌の聴き方はしなくなった。大学2人部屋だったし。
「地上の星」がヒットした時も、年配の人とカラオケに行く時ウケるかな、
と思ったくらいで、何度も聞かなかった。
だから、鳥居みゆきを見た時に、はっとしたのだ。
この人は、私がみゆきさんを忘れて暮らしている時も、ずっとずっと
ヘッドホンを離さないでいたのではないか。
売りとするエキセントリックな芸風(も好きだけど)を飛び越して、
そのことに私は心を奪われてしまったのだ。
彼女もさぞ不本意なことだろう…。


昔、雑誌「月刊カドカワ」に、柳美里がだいたいこんな趣旨のことを書いていたと思う。

「少女時代、何度も家出をした。
暗闇の中、追いかけてくる足音に耳をそばだてながらも、
ずっと中島みゆきの歌を歌っていた気がする」

当時中学生だった私は、そうだ!私も同じだ!と、
家出なんてしたことないくせに勝手に思ったものだが、
同年代の鳥居みゆきも、同じような少女だったのではないだろうか。
そう考えると、持ちネタ「ヒットエンドラ~ン!」の疾走ぶりが、
名曲『南三条』の、
「南三条/泣きながら走った/胸の中で/あの雨はやまない」の部分に…


…すみません。やっぱり重なりませんでした。

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